雑考400 第202号 新緑、深緑 2000.6.18
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北信濃の黒姫にも、ふたたび新緑の季節が巡ってきた。6月に入ると新緑は深緑に変わる
頃でもある。道に覆い被さるように広がる木々の緑が一層濃くなるのを眺めていると池波
正太郎氏の「鬼平犯科帳」の一節を思い起こす。文春文庫「兇剣」 127頁から抜粋する。
『『『
保津川の谷間をへだてて嵐山をのぞむ絶好の地で、檜や杉の鬱蒼たる樹林につつまれた
愛宕山頂の社家へ一夜を泊したのは、三浦奉行の紹介によるものであった。
翌日・・・。
山頂より五十余丁の山道を下り、清滝川をわたって試坂をこえると、そこが愛宕社・
一ノ鳥居である。
この鳥居ぎわに、わら屋根の、いかにも風雅な掛け茶屋があって、名を[平野や]とい
う。
平野やは、享保のころからある古い茶屋だそうな。愛宕詣での人びとが、ここへ来て
一休みし、いよいよ山道をのぼろうというわけで、平蔵も往きには足を休めている。
夏になると、保津川や清滝川でとれる鮎をこの平野やまではこび、荷の中の鮎へ水を
かえてやり、一息入れてから京へはこぶのだ。
平蔵と忠吾が、ここまで下って来たときは、まだ昼前であったけれども、
「腹をこしらえてゆこうか」
ずいと入るや、
「おつかれさんでござります」
赤前かけの女たちが、すぐさま、谷川へ面した腰かけへ案内してくれた。
すうっと汗がひくほど、山肌の若葉にうもれつくしたかのような茶屋なのである。
盃をもつ手のゆびまでがみどりに染まってしまいそうであった。<略>
』』』
私の家の周りには谷川も古い茶屋も無いが、至る所、深緑の木々や草の色、一色である。
木陰に入り、澄んだ新鮮な空気を木の香りと共に胸一杯吸い込むと、まさしく「手のゆび
までがみどりに染まってしまいそう」な心持ちになる。やはり、夏の黒姫は最高、です。
※今回は400字をオーバーしましたが、了承願います。
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