寧日雑考 第130号 共同幻想(岸田 秀 氏) 2026.06.16
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2026年5月29日の産経新聞朝刊に
岸田 秀(きしだ しゅう) 氏の訃報記事があった。
2026.5.25死去 92歳 老衰 とのこと。
心から冥福を祈る。

このメールマガジン「寧日雑考」、そして先代「雑考400」
の名称は岸田氏の著書「不惑の雑考」から拝借している。
創刊の趣意書改版の趣意書に書いたとおりである。

岸田氏との出会い(厳密には著書との出会い)は
今から48年前、1978年の高校生の時に読んだ
「ものぐさ精神分析」だった。

当時、私は何かに悩んでいたわけではないが、
心理学やフロイトの精神分析に関心があった。

書店で偶然見た「ものぐさ」と「精神分析」という
不釣り合いな言葉を並べた著書名に惹かれた。

「ものぐさ精神分析」は、高校生の私にも簡単に
読めた。普通の言葉で書かれており、しかも内容を
すんなり理解できた。

「ものぐさ精神分析」の中で特に衝撃を受けたのは
「自己嫌悪の効用」だ。

自己嫌悪を美化しがちな年頃である高校生の頭に
ガツンときた。

私は太宰 治 氏の名著と言われる小説「人間失格」の
主人公「葉蔵」を、あまりにも良心的で繊細にすぎる心を
持ったために、自己嫌悪に苦しむ、弱く、はかない人間
である、として読んでいた。

そして自分にも多少は似た傾向があると共感していた。

ところが「ものぐさ精神分析」の「自己嫌悪の効用」
によってその解釈を完全にひっくり返された。

自己嫌悪は一種の免罪符で、卑劣な人間の
常套手段である、と思い知らされたのだった。

「葉蔵」の行動や言動を冷静に読めば、極めて
自己中心的で人間のクズであると、確かに言える。

以来、私は自己嫌悪の感情が湧き上がる都度、
これがありのままの自分、ずるく卑怯な人間の証しだ、
と自戒してきた。

開き直りではあるが、自己嫌悪に逃げる卑怯者、
人間のクズになりたくはなかった。私の原点である。
 
 
 
岸田氏は、唯幻論(共同幻想=疑似現実)を 
主軸にして社会現象を解釈してきたと理解している。

個人の私的幻想を共同化したものが、
共同幻想=疑似現実である。従って時代に合わせて
修正して行かざるを得ない。

第31号「物語」について で故 安部公房 氏の
「死に急ぐ鯨たち」にある「開いたプログラム」説
 ヒトは、本能という閉じたプログラムを、
 開いたプログラム 変えてしまった。
 それは、言葉によって、である。
と、岸田氏の共同幻想を組み合わせて下記のように書いた。

『本能が壊れた動物であるヒトは、本能の代替物として
  共同幻想=疑似現実=開いたプログラム
 という諸刃の剣を獲得した。
 開いたプログラムを持ったヒトは、
 己の欲望から他者を殺し、原爆を落としながらも、
 現在まで何とか生き延びてきた』

この考え方は、極めて有効だと思う。常識は変わる。

任天堂がファミコンを売り出した43年前、
テレビゲームは青少年の健全育成に害を与える、
として社会的な批判の的だった。
しかし今、テレビゲーム業界は全世界で約32兆円
(2027年予想)という巨大産業になっている。

漫画・アニメも同様で、かつては低俗で子どもに
悪影響を与える、と言われていたが、今は
日本を代表する文化となっている。

生成AIの進化は驚異的で、いわゆるホワイトカラー
の仕事が相当に奪われるのは時間の問題だろう。
(私もその一人だがギリギリ逃げ切れる年齢か)

近い将来、自立型AIロボットが登場すれば、
ヒトは肉体労働からも解放されるだろう。

その時、社会がどうなるか、私には予想出来ない。
ただ新しい価値観に基づく共同幻想=疑似現実
が醸成され、それが常識となるだろう。

人類は生き延びられるか、それとも世界のどこかで
今も繰り返される戦争がやがて核戦争となって、
若しくは、AIの暴走で、人類は絶滅するのか。

今この瞬間も人類が存続の岐路にいることは間違いない。

岸田 秀 氏が提唱したとおり、
 ヒトは本能が壊れた動物であり、生き延びるために
 本能の代わりに私的幻想(個人の思考・執着・理想)を
 共同化した共同幻想=疑似現実=開いたプログラム
 を生み出した。
を理解する必要がある。

一般的な言葉・概念の、
 常識・習慣、倫理・道徳、信条・理念、宗教・信仰、 
 法律・規範、思想・哲学、文化・価値観、主義・主張
なども共同幻想の一形態と言える。

それ故、
 自分も人類の存続に直接関わる当事者である
と、自覚しなければならない。

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横浜市 橋本 好次(はしもと よしつぐ)
mail:monburu@nifty.com   http://zak400.zatunen.com/
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( 「寧日雑考」は、自由・不定・記録 を方針とした考察です)
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