寧日雑考 第117号 スペンディングファースト 2025.08.23
──────────────────────────────────────

スペンディングファースト(Spending First)は、
  「政府の支出が先で、税収は後」
という意味で、現代貨幣理論 MMT(Modern Monetary Theory)の
重要な概念の一つである。

この考え方は、従来の
  「税金を集めてから政府が支出する」
という、通常の税金のイメージとは真逆の発想であることは分かるが、
釈然としなかった。

このスペンディングファーストについて、経済評論家 三橋貴明 氏が、
分かりやすい思考実験で「税は財源ではない」ことを解説する
ネット動画があった。

とても腑に落ちたので少し脚色して紹介する。

====ここから==============
ある王様が、国民1千人を引き連れて、
無人島に入り、新しい国を作ることになった。

その島は気候温暖で、豊かな自然と
地下資源に恵まれ、自給自足できた。

王様は王宮を建てることにした。

そこでまず新しい通貨「Zen」を作った。
材質は木片で、偽造防止のため
王の刻印・通し番号・金額を焼き付けた。

1Zenは、今の日本円で1万円ほどの価値である。

王様は通貨Zenを10万枚(=10億円)作った。
そして国民100人を募集し、ひとり1000Zen(=1000万円)
ずつ、合計10万Zenを配って、王宮の建設を命じた。

簡素な王宮なので、材料代・人件費を入れても
全部で1万Zen(=1億円)ほどで出来る計算だ。
残りの9万Zenは、応募した国民の収入になる。
ひとり当たり900Zen(=900万円)の計算だ。

王宮は無事完成した。

王様は大蔵省を創設し、所得のある国民に
税金を納めるよう命じた。
納税はもちろんZenで払わなければならない。
====ここまで==============

この思考実験で王宮を作るための1万Zen(=1億円)の
財源は、税金だろうか?

違う。

先に王様が支給した10万Zenが、王宮を作るための財源だ。

これがスペンディングファースト
  「政府の支出が先で、税収は後」
の意味である。

今の日本で言えば国債発行が財源にあたる。
寧日雑考 第22号 赤字財政=打出の小槌

実際、令和7年度は2025/4から始まるが、
令和7年度の税収が確定するのは、
 個人で令和7年12月(2025/12)
 3月決算の法人なら令和8年3月(2026/3)
である。実際の国への納付はさらに先になるだろう。

そして、少なくとも令和7年4月〜6月は令和7年度分の
税収は無い。この間の政府支出の財源は国債である。

いま、ガソリン暫定税率廃止の財源が議論されているが、
財源は国債なのだ。

また消費税減税の財源を、法人税増税に求める言説が
一部で言われているようだが、これは全く馬鹿げた話だ。

法人税を増税したら人件費が抑制される。
企業経営を考えればすぐに分かることだ。

政府が積極的な賃上げを求めている事と逆行する。
おおかた財務省の差し金だろう。

上述のスペンディングファーストの思考実験は、
これまでの税収の考え方を逆転させる。

MMTは、従来の金(カネ Money)の定義・概念を根本から覆す。
天動説から地動説へのコペルニクス的転回に匹敵すると言って良い。
寧日雑考 第45号 MMT コペルニクス的転回

───────────────────────────────────────

横浜市 橋本 好次(はしもと よしつぐ)
mail:monburu@nifty.com   http://zak400.zatunen.com/
____________________________
( 「寧日雑考」は、自由・不定・記録 を方針とした考察です)
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

トップページに戻る