寧日雑考 第34号 バイリンガルと読解力 2017.12.07
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次の二つの文章AとBの意味は、「同じ」or「異なる」のどちらだろうか?

A「幕府は、1639年、ポルトガル人を追放し、大名には沿岸の警備を命じた」
B「1639年、ポルトガル人は追放され、幕府は大名から沿岸の警備を命じられた」

日本語で普通に義務教育を受けていれば、小学生でも分かる程度の
簡単な問題である。

出典は、2017.11.28の日経朝刊記事である。
「中高生の読解力ピンチ 主語・述語の関係理解不足」という見出だ。
一部抜粋する。
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 主語と述語の関係といった「係り受け」など、文章の基本的な構造を
理解できていない中高生が多くいるとみられることが、国立情報学研究所の
新井紀子教授らの研究チームによる調査で27日までに分かった。新井教授は
「読解力が不十分だと社会生活を送る上でも大きな影響が出る」と懸念している。
<略>
「同じ」と誤答した中学生は約43%を占め、高校生でも約28%が間違えた。
<略>
────────────【ここまで】──────────────────

簡単な問題なのに誤答が、中学生で4割、高校生で3割もあったことに驚く。
早期の英語教育よりも、まずは母国語である日本語教育が先ではないかと思う。

私が直接関わった人間に、それなりの有名私立大学(所謂 早慶J-MARCH)を卒業し、
一部上場企業に就職した新人で、しかもバイリンガル(日英)・トリリンガル(日英中)
という日本人が複数いる。2人は帰国子女、1人は母親が外国人(英語圏)である。
当然TOEICは全員満点だ。

彼らとの口頭でのやり取りは、受け答えの反応もよく、表情豊かで、
コミュニケーション能力が高いと感じる。(もちろん日本語)
しかしメールや文章の往復が進んでゆくうちに違和感を覚えるようになる。

なぜか私の意図が、"彼らにだけ" 伝わらないのだ。

やがて彼らの上司を含めた関係者との意思疎通に齟齬が生じ、簡単だった筈の課題が
だんだんややこしくなり、無駄な時間が過ぎて期限が迫り、重大事になってしまう。
これが一度ならず、何度か繰り返されたので辟易した。

実はバイリンガルの1人に先ほどの問題を出したのだが、案の定、誤答した。
残りの2人は既に退職していた。

勿論バイリンガルが全員、こうであるわけはない。
当て推量だが、日本語であれ、英語であれ、母国語を獲得する幼児期に、
文章の論理構造を理解する訓練をしておかなければ、簡単な会話の聞き取りと
発音だけの、使い物にならない表面的なバイリンガルが出来上がるのだろうと思う。

日本在住の中高生の相当数が、この問題を間違うという現状は深刻である。
ある程度の長さのある文章を、読まず、書かず、LINEのような一言とスタンプ
だけの会話を続けた結果だろうか。
活字離れ、読書離れと言われて久しいが、携帯電話などの文明の利器への
過度な依存が生み出した現象の一つだろう。

かく言う私も、携帯依存で電話番号を覚えず、カーナビ依存で道を覚えず、
PC依存で漢字を手書きできない事態に陥っている。
このままでは、惰性に基づく酔生夢死の人生を過ごしてしまうことになる。
もう少し五感と脳に負荷を与えることに用心しよう。

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横浜市 橋本 好次(はしもと よしつぐ)
mail:monburu@nifty.com   http://zak400.zatunen.com/
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( 「寧日雑考」は、自由・不定・記録 を方針とした考察です)
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