寧日雑考 第104号 リアル「1984」 2024.07.25
──────────────────────────────────────

「1984」はイギリスのジャーナリスト、作家であるジョージ・オーウェルが
1949年に刊行した近未来の空想小説である。

ビッグ・ブラザーと呼ばれる共産党一党支配の政府が、あらゆる手段で
国民を24時間監視する恐怖の独裁国家の物語だ。

ビッグ・ブラザーを批判すると、思想犯として「思想警察」に拘束される。
自宅での親子の会話ですら、ビッグ・ブラザー批判は子供による当局へ通報で
親が逮捕される。子供たちは思想犯撲滅の徹底した洗脳教育を受けているのだ。

「1984」はビッグ・ブラザーが監視によって自らの体制を維持する物語である。

さて、中華人民共和国(以下China)は、2014年に「反スパイ法(反間諜法)」を
制定し、2023年4月には「スパイ活動」への対策を強化する改訂を行った。

これでChinaへの渡航者は、仕事・観光に関わりなく、細心の注意が必須となった。
私は改訂の詳細を知り、これは現代のリアル「1984」であると確信した。

この改訂で「スパイ活動」の定義が大幅に拡大され、単に国家機密の収集だけ
ではなく、国家の安全や利益、ひいては政権の安全に関わる情報の提供や収集も
処罰の対象となった。

China国家安全当局の担当者が、個人の携帯電話やパソコンを検査できるなど、
取締り権限が強化されている。

なにより恐ろしいのは、反スパイ法の適用基準があいまいで、事実上、
当局の裁量で外国人がスパイ活動の嫌疑をかけられる可能性が高いことだ。

China渡航者への注意事項を見ると、外国人に対する監視が厳しさを
増しており、ホテルの部屋やレストラン、タクシーでの何気ない会話や雑談、
インターネット上での発言に至るまで、常に誰かに見られていると思って
行動する必要がある、と言う。

特に写真撮影には注意が必要で、軍事施設・政府機関などはもちろん、
一見観光スポットに見える空港・駅・橋・トンネル・発電所・工場・研究施設・
データセンターなども、インフラ施設・ハイテク施設の国家機密として当局の
監視対象になっており、建物の外観や看板、警備員の姿などが写真に
写り込めば、それだけでスパイ容疑にかけられる危険がある、という。
更には、デモや抗議活動の様子の撮影もダメである。

また「ウイグル」「チベット」「台湾」「香港」などのキーワードは、
口にするだけでも極めて危険で、China要人や共産党の批判、経済に関する
話題も厳禁である。
何気ない一言が国家の安全保障を脅かす行為と見なされるという。

Chinaは正に、現代のリアル「1984」である。

ニュース報道を見ると、Chinaは、武漢発新型コロナへの対策失敗や
不動産バブル崩壊などで経済が低迷し、若者の失業率も高止まりという。

また外国資本のChinaからの撤退が続出している。2024/07/24の
日経朝刊トップは「日鉄、中国宝山と合弁解消」だった。

超監視国家の恐ろしさは、裏を返せば、今のChinaが体制の維持に
それだけ必死である、ということだろう。

ひとたび台湾有事が勃発すれば、海運物流に影響が出て、モノの価格
から始まる私たちの日常生活、そして日本国の安全保障に直結する。

今のChinaの動向から目を離せない。

在上海日本国総領事館 安全の手引き
https://www.shanghai.cn.emb-japan.go.jp/files/100484776.pdf

外務省 スパイ行為やその他違法活動とみなされる可能性がある注意すべき行為の例
https://www.anzen.mofa.go.jp/china_spy1/china_spy1.pdf

外務省 2023年改訂「反スパイ法」におけるスパイ行為の定義
https://www.anzen.mofa.go.jp/china_spy2/china_spy2.pdf

外務省 中華人民共和国(中国) 安全対策基礎データ
https://www.anzen.mofa.go.jp/info/pcsafetymeasure_009.html

───────────────────────────────────────

横浜市 橋本 好次(はしもと よしつぐ)
mail:monburu@nifty.com   http://zak400.zatunen.com/
____________________________
( 「寧日雑考」は、自由・不定・記録 を方針とした考察です)
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

トップページに戻る