寧日雑考 第29号 杞憂・楽観・諦念 2017.07.13
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私事だが、50年ほど前に曾祖母が亡くなった。
天寿を全うした大往生だった模様だ。

当時、小学校入学前だった自分に確かな記憶は無いのだが、
私は曾祖母に懐いていたらしい。
尤も曾祖母にしてみれば私など無数にいる曾孫の中の1幼児で、
保護責任を感じる必要の無い、気楽な存在だったろう。

その曾祖母が亡くなり「ヒトは死ぬ」ことを知った。
同時に自分もいずれ死んで居なくなるという現実に愕然とした。
悲しい気持ちになって、どうやら泣いたらしい。
叔母の一人が懸命に私を宥めてくれた。

幼児の全知全能感から少しずつ、物事には限界がある、という
現実を理解しつつ、だんだんと自分が小さくなってゆく過程での
出来事である。

話は変わるが、今から10数億年後、太陽は赤色巨星となる。
即ち、地球が膨張する太陽に飲み込まれて灼熱地獄と化し、
地球の生命はすべて死滅すること意味する、とむかし見聞した。
それでも10数億年後の未来まで、なんとか人類が文明を
維持・発展させながら存続できれば、人類は大型宇宙船で
太陽系を脱出し、新たな地球型惑星を見つけてそこに移住
できるだろう、とSF的かつ杞憂ながらも、論理的に楽観していた。

ところが最近読んだ、ブルーバックス

 宇宙に「終わり」はあるのか
 最新宇宙論が描く、誕生から「10の100乗年」後まで
 吉田伸夫 著

によれば、今から10数億年後には、太陽に似た星はすべて
赤色巨星となり、老齢化した宇宙には新しい太陽は生まれない。
つまり、宇宙には、いわゆる太陽は存在しないらしい。
また赤色矮星は存在するが、表面温度が低いためエネルギーが弱く、
生命に適した範囲(ハビタブルゾーン)の惑星に、生命が生まれた
としても、知性を持つまで進化することは無理らしい。

更に100兆年後は、すべての赤色矮星すら最後を迎えて
恒星が消滅し、宇宙は文字通りの暗黒時代になるという。
1垓年(10の20乗年)後には、銀河がブラックホールに
飲み込まれ、1正年(10の40乗年)後には、物質を構成
する素粒子が壊れる(つまり物質が壊れる)という。
そして最後、10の100乗年後は、ビッグウインパーを迎える。
(ウインパーとは、すすり泣き、の意味だそうだ)
私の理解では、宇宙は消滅する、というのが量子力学の
最新研究の帰結らしい。

これは参った。

銀河がブラックホールに飲み込まれるという1垓年後でさえ
厳しいのに、宇宙が消滅するということは、人類の存続どころか、
そもそも物質すら存在できないということだ。
つまり、すべての完全・永遠なる死、である。

これは悲しい。
50年ぶりに、曾祖母の死を思い出した切っ掛けである。

ヒトの寿命は精々100年程度である。そして人類の文明発祥から、
たかだか5千年程度(メソポタミア文明 紀元前約3千年)なので、
太陽が赤色巨星になる10数億年後という時間は十分に長い。
しかし今、地球の年齢は45億年、宇宙の年齢は138億年である。
実質的な地球の寿命の8割は経過し、残り2割とも言える。

戦争を繰り返す愚かな人類だが、いつの日か経世済民が実現するまで
なんとか生き延びれば永遠に存続できる可能性がある、と思っていた、
その望みが完全に断たれた。

人類はもとより、生命、物質、宇宙は、長期的には泡沫であることが、
論理的に証明されたのだ。嗚呼。
それなら限られた時間をどのように生きるか、答えは容易ではない。


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横浜市 橋本 好次(はしもと よしつぐ)
mail:monburu@nifty.com   http://www.geocities.jp/monburu/
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( 「寧日雑考」は、自由・不定・記録 を方針とした雑文です。)
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