寧日雑考 第23号 名運転手 2017.02.04
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昨年の夏以来、業務の都合で宇都宮駅から毎週金曜日の同じ時間に、
同じ道順を同じ会社のタクシーで移動している。

あるとき車内の雑談で、雨の日にタクシー乗り場で40分間も待った話を
したところ、電話予約できますよ、と乗務員に言われたことがきっかけで、
新幹線に乗る前に時刻指定で予約しているのだ。但し乗務員は毎回違う。

さて、通い慣れてくると乗務員による運転の違いに気付くようになる。
やはり同じ時間帯、同じ道順、同じ会社であるから、サービスの違いが、
雲泥の差となって見えてくるのだろう。
昨日の乗務員は感動を覚えるほどの、もてなしのプロだった。
そう感じた主な理由は以下の6つである。

(1)寒い季節にも拘わらず車外に立って、トランクを開けて待つ
(2)走り出し暫くしてから、車内の温度はいかがですか、と尋ねる
(3)急加速や無闇な進路変更のない、丁寧な運転をする
(4)目的地の門前の道路で料金メーターを止める
(5)門を入り玄関先で方向転換して、車を玄関に横付けする
(6)開閉レバーを使わず自ら外に出て、後部座席のドアを開ける

(1)、(3)、(4)を実行する運転手には、4回に1回程度は遭遇する。
しかし(2)、(5)、(6)は初めてであった。特に(6)には恐縮した。
ハイヤー並みである。
(4)のためにいつもより1メーター分少ない料金であるにも拘わらず、だ。
要は、もてなしの心、気配りの違いだろう。
タクシー運転手としての矜恃を強く体現していた。
おなじ労働でもその品質と結果は、天と地ほども違う、という実例である。
私は感銘を受け、この方が運転するタクシーにまた乗りたいと心から思った。

少し考えると、この姿勢はどんな業務でも共通することが分かる。
タクシー業で言えば、客を迎え、快適な空間で、安全に移動し、
ほんの少し得した気分にさせ、最後に気持ちよく下車してもらう、という
一連の業務のそれぞれの場面で、どうしたら客が満足するかを考える、
ということだろう。

ピーター・ドラッカー氏の「経営者に贈る五つの質問」は、
 1.我々の使命は何か?
 2.我々の顧客は誰か?
 3.顧客の価値は何か?
 4.我々の成果は何か?
 5.我々の計画は何か?
であると言う。

労働者にとっても、この5つの質問は極めて含蓄が深い。
ここで言う「顧客」とは、営業や客商売の相手だけではない。
間接部門なら同僚に始まり、社内の関連する他部署の人間が顧客になる。
製造部門なら次工程に始まり、品質管理や納品先、そして最終消費者が
顧客になるだろう。
自分の顧客が誰なのかを認識し、どうしたら顧客が満足するかを常に
考えながら行動する。その結果は自分の労働の品質向上に必ず結び付く。

タクシーを降りる際、1割程度の心付けを渡したところ気持ち良く
受け取って頂いた。運転者証に記載の名運転手の名は、T氏である。


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横浜市 橋本 好次(はしもと よしつぐ)
mail:monburu@nifty.com   http://www.geocities.jp/monburu/
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( 「寧日雑考」は、自由・不定・記録 を方針とした雑文です。)
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