寧日雑考 第2号 愛しのPC 2016.02.06
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パーソナルコンピュータ(パソコン、PC)は、今ではコモディティー化
された消耗品になっている。日常生活ではあって当たり前のモノ、更に
仕事では無くてはならないモノとなった。

私が働き始めた1980年代半ばの頃、NECがPC業界のガリバーとして
聳え立っていた。国内PCの6割近くのシェアを占めていたと記憶している。
中でもPC-98(ピーシーキューハチ)シリーズパソコンのシェアは突出していた。
その頃からPCが会社の事務作業で急速に使われるようになった。
ワープロは一太郎、表計算はロータス123やマルチプランというソフトウエア
が定番だった。現在ではワードとエクセルに変わっている。

当時、電子メールはまだ黎明期で、パソコン通信と呼ばれていた。
電話回線とモデムを使ったテキストデータのやりとりが主流で、
業務ではさほど普及していなかった。

電卓とソロバンが事務作業の必須道具だったところへPCが入り、
作業効率・生産性は驚異的に向上した。
当時のOSは、MS-DOS(エムエス・ドス)という真っ黒の画面
(今のコマンドプロンプト画面)で、慣れないキーボードを使い、
 「JXW」(一太郎)とか、
 「123」(ロータスワンツースリー)
などと打ち、リターンキーでそのソフトウエアを起動させていた。
この起動方法は、いかにもコンピュータを操作しています、という感じが
強く出ていた。

面倒だったのは、日本語を使えるようにする為に、OS(MS-DOS)を
立ち上げる時に日本語変換ソフトを組み込む必要があったことだ。
そのためCONFIG.SYSファイルにバッファとデバイスを記述する、
というちょっとした知識が必要だった。と言っても、プログラムを
組む訳ではない。ほんの数行のアルファベットと数字を記述するだけで、
仕組みとパターンさえ知っていれば誰でも簡単にできることだった。

またAUTOEXEC.BATというファイルにパソコンが起動した後の手順を
記述しておけば、自動でPCを立ち上げて、続けて自動で123を起動させ、
データを読み込ませ、定型的な事務作業を自動で行わせる、などという
こともできた。

これらのパソコン操作は、初めて見る人間には到底理解できない、
コンピュータの難解さそのものだった。それでプログラマでもなく、
ユーザーでもない、ただのパソコンオタクがPCの専門家と目される
ような時代だった。

私が初めてPCを買ったのはそんな時代のただ中、1988年の秋だった。
NECのPC-9801VM11という往年の名機だ。当時、会社で同じ型番の
PCを使っていて、どうしても欲しくなり、仕事に役立つから、と
家内に頼み込んで買って貰った。家内はよくぞ承諾してくれたと思う。
何せ夏のボーナスのほぼ全部をつぎ込んだのである。

業務でPCを使っていたと言っても、ワープロと表計算で、つまりは
今とまったく同じ使い方だった。ただ先ほども書いたような、MS-DOS
と日本語辞書ATOKと123とを1枚のフロッピーディスクに入れて、
日本語が使えるパソコン起動用ディスクを作るとか、フロッピーディスクを
フォーマットしてデータディスクを作る等といった作業を、私は 見よう
見まねで覚えて嬉々として行っていた。

それで上司を含めた皆から、ボーナスを丸々つぎ込んで自前のPCを
買ったという事実も手伝って、PCに詳しい人間と見られるようになった。
しかし、自分としては単にパソコンいじりが好きなだけだった。
何しろプログラム一つ書けない。
つまりはパソコン専門家ではなくパソコン愛好家だった。

そんな時代がしばらく続いた後、Windows95が登場しPCの世界を
一変させた。これは衝撃だった。マウスを使い、アイコンをダブル
クリックするとワープロや表計算など望みのソフトウエアが、
いくつでも立ち上がった。今では当たり前のマルチタスクである。
MS-DOSはシングルタスクで、1度に一つのソフトウエアしか動かず、
ワープロソフト一太郎と表計算のロータス123を、一つの画面で、
或いは画面を切り替えながら同時に使う、ということができなかった。

またMS-DOSの時代にはワープロや表計算などのアプリケーション
ソフトは、PCの機種毎に個別のバージョンが必要だった。しかし
Windows95の登場以降は、Windows95さえ動けば、その上で同じ
アプリケーションソフトが使えるようになった。
更に音や映像もテキストファイルと同じように1つのファイルとして
扱えるマルチメディアの時代になった。

今のPCの基本的な機能もWindows95の当時から変わっていない。
単にCPUの処理スピードが速くなり、内部メモリやハードディスクの
容量が大きくなり、インターネットの接続速度が速くなっただけだ。
但し、端末がポケットに入るほど小型化され、無線接続が確立された
事で、コンピュータを持ち歩けるようになった。スマートホンである。
しかもCPUの高速化と記憶容量・回線速度の増大は、動画を持ち
歩いたり、ビデオ・オン・デマンドで映画DVDなどの媒体を不要に
した。技術革新の素晴らしさを感じる。

Windowsのバージョンアップに連動してハードとしてのPCの性能が
飛躍的に向上した。そしてPCの主流はデスクトップ型からノート型に
変わった。これに呼応するように、私は今までに23台、PCを買い替えた。
内訳はデスクトップ9台、ノート14台だ。うち新品で買ったのは
デスクトップ1台、ノート2台の合計3台だけである。

一番高価だったのが、一番最初のPC-9801VM11デスクトップだ。
残りの20台は全て中古品を購入した。最初はパソコン通信ニフティの
「売ります・買います」コーナー、インターネットが普及した後は
ヤフーオークションだ。毎回慎重に検討してから購入したので、
幸いにして、これまで失敗したことは一度もない。買ってさんざん
使い倒した後、またオークションで売りに出す。この繰り返しだ。
中古品なので、平均の購入価格は新品の1〜2割である。

パソコンのほかにもPDA ( Personal Digital Assistant )の草分け
のザウルス(シャープ製 いま存続の危機で話題の会社)やNECの
モバイルギア(タッチタイピングできるキーボード付きの超小型PC)を
何台か使い倒した。

この文章を書いていて改めて思ったのだが、iPhoneやiPadは
本当に凄いコンピュータだ。取扱説明書なし、知識不要で、
触っているうちに誰でも 扱えるようになる。雑考400 第382号
でも書いたが、天才の故スティーブ・ジョブズ氏に感謝!である。
http://www.geocities.co.jp/HeartLand-Keyaki/1755/zak40382.html

さて、2014年4月のWindowsXPサポート終了は残念だった。
XPは、性能が低いCPU・少ないメモリでも、サクサクと動く安定したOS
という意味では、Windows95以降で一番まともなOSだったと思う。
但し、昨年からMicrosoft社が無償で提供しているWindows10は、
とても良くできている。CPUの性能とメモリ容量が一定水準以上ならば、
XPを超えていると感じる。ただ残念だが、XPが快適に動く程度のCPUの
パソコンではやはり動作が遅く、使っているとストレスがたまる。

そこで古いXPノートPCに、以前から気になっていた無料OSである
Linux(リナックス)のセットアップに挑戦した。今はインターネットという
便利な仕組みがある。Linuxの入手からセットアップ方法まで、全部
タダで入手できる。高い専門書を買って調べる必要もない。
信頼できそうなホームページ(HP)をひたすらネットサーフィンしてLinux
の概要を把握した。Linuxには驚くほど多数のバージョンがあった。

初心者向けのHPを参考に4種類のLinuxディストリビューション
プログラムをダウンロードして、USBブートという方法で旧XPノートPCに
セットアップし、それぞれ試した。
その結果「Lubuntu 14.04 LTS」Linuxディストリビューションに決めた。
一番速く、しかもWindowsに似ており、使い勝っても良かった。

この文章もLubuntu上で、フリーのテキストエディタソフトを使って
書いている。完成したら、Google Chromeでまぐまぐにログインし、
配信手続きして完了だ。

OSからワープロ、テキストエディタ、表計算、メディアプレーヤー、
セキュリティ、ブラウザなどWindowsと比べても遜色のない
アプリケーションソフトが全部フリーである。しかも古いXPノートPCで
サクサク動く。全くストレスがなく、実に快適だ。
愛着あるノートPCが蘇ってとても嬉しい。

このように書くと、Lubuntu Linuxが簡単にセットアップできたように
思われるだろうが、実際には、紆余曲折の連続だった。平日の帰宅後、
休日もLubuntuとアプリケーションソフトのセットアップにかなり時間を
費やした。しかし、苦痛ではなくとても楽しい作業だった。

重要な操作はすべてターミナルという黒い画面(コマンドプロンプト)で、
命令コマンドを打ち込んで行う。昔のMS-DOSを思い出した。
コマンドの種類は違うが、記述の仕方は同じなので、応用が効くのである。
昔とった杵柄、というやつだ。

乱暴に言えば、LinuxはUNIXの無償版で、MS-DOSはUNIXを参考に
考案されたらしいので、LinuxとMS-DOSは、UNIXを通じた遠い親戚
くらいの関係はあるのだろう。

私は相変わらずプログラムは書けない。しかしパソコンで、ネットサーフィン
して、音楽を聞いて、映画を見て、学習講座の動画を見て、新聞・書籍を
読んで、文章を書いて、そして何よりパソコンをいじって遊んでいる。

いま我が愛しのPCは、デスクトップ1台、ノート4台が現役である。
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横浜市 橋本 好次(はしもと よしつぐ)
mail:monburu@nifty.com   http://zak400.zatunen.com/
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( 「寧日雑考」は、自由・不定・記録 を方針とした考察です。)
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